Anthropic と OpenAI の話から始まって、気づいたら半導体の地政学の話をしていた。
繋がりはこうだ。AI を作るには大量の GPU が必要。GPU は半導体チップ。そのチップを作れる会社は世界でほんの数社しかない。誰がチップを手に入れられるかで、AI 開発の競争は決まる。
半導体は「現代の石油」と呼ばれることがある。
スマホ、PC、自動車、飛行機、ミサイル、AI。現代のあらゆるものにチップが入っている。チップがなければ何も動かない。20世紀の石油のように、これを制する国が世界を制するという構図になっている。
チップができるまでの流れを初めてちゃんと理解した。
シリコン(砂)を薄く削って「ウェーハ」という円盤を作る。その表面に感光材を塗って、超短波の光を当てて回路パターンを焼き付ける。不要な部分を薬品で溶かす。これを何十回も繰り返すと、チップができあがる。
この「光で焼き付ける」機械を作っているのが ASML(オランダ)で、この工程を請け負っているのが TSMC(台湾)だ。
チップの中にはトランジスタという極小のスイッチが何十億個も並んでいる。iPhone には約160億個。1個のサイズは 2〜3nm で、DNA の幅と同じくらい小さい。このオン・オフが「0と1」になって計算が生まれる。
役割分担がはっきりしている。
NVIDIA や Apple はチップを「設計」するが、自分では作らない。製造は全部 TSMC に任せる。TSMC は ASML の機械を使って製造する。
- 設計:NVIDIA・Apple(アメリカ)
- 製造:TSMC(台湾)
- 装置:ASML(オランダ)
ASML の EUV 露光装置は1台約300億円。年間に作れる数も限られていて、世界で ASML 以外に作れる会社はない。ドイツの光学、アメリカのレーザー、日本の精密部品など5,000社以上のサプライヤーの技術が詰まっていて、数十年かけて積み上げた技術の塊だ。
ここで疑問が生まれた。なぜアメリカがオランダ企業の輸出を規制できるの?
答えは「ASML の機械の中にアメリカの技術が入っているから」だった。
アメリカには「外国直接製品ルール(FDPR)」という法律がある。アメリカの技術・ソフトウェアを使って作られたものは、どこの国で製造されていても規制できるという仕組みだ。
ASML の装置に使われているレーザー技術はアメリカ企業製。設計ソフトウェアもアメリカ製。だから「オランダが作った機械」でも、アメリカが「中国に売るな」と言えば、オランダ政府も従うしかない。
これがアメリカの本当の強さだと思った。
半導体の設計ツールはアメリカ企業がほぼ独占している。製造装置の核心技術にもアメリカが入っている。製造を担う TSMC も、もとをたどればアメリカ技術の上に成り立っている。
どこを切ってもアメリカの技術が出てくる。だから中国がどれだけお金を積んでも、この網から抜け出すのが極めて難しい。
表向きは自由貿易・グローバル経済に見えるけど、実態は「核心技術を誰が握っているか」で力関係が決まっている。
日本がこの流れに乗ろうとしている。
TSMC が熊本に工場を建てた。日本政府は建設費の約半分を補助した。さらに「ラピダス」という国策会社を設立して、2027年に 2nm チップの国産化を目指している。
台湾有事のリスクがある中で、製造拠点を分散させたい TSMC と、半導体の自国調達力が欲しい日本の利害が一致した結果だ。
Anthropic の話から始まって、ここまで繋がるとは思っていなかった。
「誰が核心技術を持っているかが力関係を決める」というのは、AI でも半導体でも同じ構造だ。Anthropic が Amazon と Google に依存しているのも、ASML がアメリカの技術に依存しているのも、根っこは同じ話に見える。